2^4 裏長屋

秘密基地は草原に! コメント承認は気まぐれに!

弾十六 訳 リチャード・コネル「閃光」のページ

翻訳裏話やら、ネタバレ含む無駄口、訳註を徐々にここに書いてゆくつもり。

誤訳とか気に入らない日本語をコメントいただけると幸いです!

 

なおコメントは承認制です。面白いのは、どんどん記事に載っけますよ!

 

既訳ありです(私は未見)。「ぷろふいる」昭和11年(1936)9月号「いなづまの閃き」酒井嘉七 訳なのですが、

冒頭が

まっくらな晩でした。嵐というほどではありませんでしたが、海は荒く、岩にあたっては砕ける波の音のために、私たちの言葉も、ともすればお互いに聞きとれぬほどでした。(以下略)

だそうです。アンドリューの告白体にしている超訳(翻案の方が適切か)ですね…

 

(1) 「黒い夜…灰色の砂」とすべきでしょうけど、チェスタトン風に、色で対比させたくなりました…

(3) 「嵐が近づく(of the oncoming storm)」を後ろに持って来たくて。

(5) clapなんとかならないですかね。(4)のapplauseを連想出来る日本語で。

(6) このセリフ、英語でも叫びとして発声できるかなあ… この後のセリフも、原文からは、大声で喋ってる感じがしない。

(8) evil、もっといい日本語がないでしょうか?

(10) この後でRegular Rogerと呼ばれるので、頭韻っぽくするため、わざと余計な「律儀」を付加しています。

(19) 音速は340メートル/秒。なので七つ数えれば2300メートルになる。いちマイル(1.6キロ)を大幅に超えるので「おや?」という感じが良く出ている。

(23) 日本語はオノマトペが豊富なので、使えるところにはドンドン使いたい。まあ馬鹿っぽく見えちゃうけどね。会話なら問題ないだろう。

(26) ここは不正確なので直したほうが良いと思っています。「いつも通り7時27分の列車で」が正しい。「我が道(his own path)」は上手くいったが、ここら辺はこなれていない感じが残っている。なお2マイル(3.2キロ)を30分で、というのは結構な早足だろう。細かい話だが【「】内【「】が誤りだと断ずる方がいるが、そこは「誤り」なのだろうか?【かぎかっこ】内の【かぎかっこ】は【小かぎかっこ】を使うと良いようだが、両カギカッコの見た目はあんまり変わらない。フォント上に【小かぎかっこ】が存在せず、印刷文の見た目で誤解がなければ【「】を連続で使いたい。もちろん【「「つまり」というのは…】みたいに、混乱しそうな時はもっと良い方法を取りたいところだ。でも【“】は濁点みたいで嫌だなあ。【「だが“スティーヴが”と彼女は言ったのは…」】みっともないよね。

(28) 女性の発言の語尾に「わ」をたっぷりばら撒く翻訳者とか作家がいるけど、あんたの周りにはそんな喋り方をする女がたっぷりいるんだろうな?

(34) 「堅牢」はひどいなあ。「揺るぎない」がいいかな?怖がらない、というニュアンスも含めたい。

(35) dodoをドウ訳せばいいの?不思議の国のアリスのイメージかなあ。

(39) 「ミスター」呼びは実は結構重要で、その微妙さを出すために、そのまま使いました。

(42) トマソのイラストではfragileに見えないのよ。画家がちゃんと読んでなかったのか? それとも米人のfragileはあんな感じなのか? イラストではイブニング・タイが蝶ネクタイで、そうか、正式なマナーでは、そっちか!と気づきました。当時(1931)の欧米ではたとえ家族だけのディナーでも、れっきとした社交の場なんですよね。

(47) My dear childをどう日本語っぽく訳したらいいのだろう。

(56) 砂浜(sand)は実は正確ではない。後でわかるが、そこは300ヤード(270メートル)も海から離れている。「砂浜」はもっと海に近いイメージだろう。

(60) トーチをワザと使ったのは、Torchは英国英語らしいから。伯父さんのオリジンは英国なのかも。長篇Murder at Sea(1929)を読むと伯父さんはニューヨークに住んでるみたいだが…

(62) Waitを抜かしちゃった。アンドリューが近寄って来ようとしたので伯父さんが止めた。そういうイメージを喚起する、上手いセリフ。

(65) 英語の叙述動詞、cryとかshoutは「大声を出す」程度。日本語の「叫ぶ」だと大袈裟に感じる。英米人のジェスチャーや発声は大袈裟だけど、そんなにしょっちゅう「叫んで」いないはず。ここのlightningは「雷」と訳すのが普通。だけど光の「稲妻」と音の「雷鳴」をハッキリ区別したくて、こうなっています。

(66) ここも本来は「雷」だろう。稲妻で死んだ、稲妻が落ちた、とはあまり言わない。

(69) この文章も好き。

(70) この場面のトマソのイラストを見て、ハッとした。死体の頭らへんに帽子が落ちている。当時は紳士が無帽で外出するのは非常に稀だった。でも文章には全く無い。本当にこの場面で帽子がそこに無いなら、むしろ、作者はその点について書くはずだ。(帽子が落ちていないが、誰かが盗んだのか?とか。ロジャーは珍しく帽子嫌いの男だった、とか) 言及がないのは帽子がどこかに落ちていたからだろう。作者にもあまりに当然なことなので、文章に書くことすらしなかったのだ、と思う。

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(73) ここがEveningであることに気づけたのは、Webサイトのご意見番、ハンドルネーム「虫暮部」さんのおかげ。「こんばんわ/は」論争があり、私はどっちかというと「わ」派だなあ、と思っていたら、ここにはGoodが無い、と閃いた。医者は悲劇のあと、はじめて身内に会うんだから、ここのあいさつは、まず「ご愁傷様」だろう、と。

(82) 最初の文章「それが意味するのは一つ」じゃないの? というご意見があったのだが、その言い方はいかにも直訳調で好きじゃない。meanも「意味」というより、言葉に上手くならない「正解」だと思っている。いやつまりボクが言いたかったのはさあ、という時に I mean... と使うのでは? なので「正解」が一つだけ、ポコっと出てきた感じを出してみたわけです。

(84) ここにコネルさんの繊細さが現れていると思います。最初のミスター・ムーアはロジャーのこと。生きてる時は家族の最年長者でMr MoorはRogerが正解。だけど、もう死んだんだった… とケルトンは思い直して、dead man、Mr Moor(今度はアンドリューのこと)と言いなおしている。細やかな心の動きが見えるように思う。【2024-4-11 05:19追記】

(99) out of my depthを「能力を超えた深い沼」としてますけど、後で直す予定。

(105) 検死官はインクエストが開催されるまで、死体を管理する義務がある。

《以下part 2》
(118) フェアに行く、はもっと日本語にしたいなあ。

(125) ここは、「アンドリュー・ムーアは言った。」に変える予定。

(126) 当時の米国消費者物価指数基準1931/2024(20.55倍)で$1=3177円(2024-4-17時点は絶賛円安中だが…)。5000ドルは1590万円。300万ドルは95億円。10万ドルは3億円。

(129) ポロが出てくるので、バックグラウンドが英国風。少なくとも上流ニューイングランド人っぽい。

(132) ゲルダが美人なら、恋敵がいるのではないか?と下衆な私なら思っちゃうが…

(133) The Long and Winding Road... と歌っちゃいました。ちょっとこなれた表現に直す予定。Tremendous triflesは書名になってるので、二重カギカッコを使いました。Chesterton "the unobvious obvious"はWeb検索では引っかからず。この表現もチェスタトンっぽいな、と思ったんですが…

(136) death-dealing weaponの訳語は適当です。

(137) ここの歌曲は何かなあ。

(138) 〜に戻ろう、はあまりに直訳なので、この日本語を採用。

(142) 〜ing、なので「立て続けに」

(144) 普通なら「外出する!」で良いが、outを先に響かせたかった。